3月31日のFrankie Knucklesの突然の死以来、彼を表現する言葉として何度となく使われたのは「天使」という単語だった。仕事上、あるいは個人的にシカゴでKnucklesと親しい間柄だった人々誰しもが、友人として、またアーティストとしての彼の懐の広さ、寛大さを口にする。

Knucklesのアシスタントを務めていたMaurice Chaytorは、「彼はみんなに対してあたかも彼の唯一の知人であるかのようにふるまい、相手にもそう感じさせるんだ。相手が誰なのかは関係ない。優しさと愛情を持ち、彼ができることならどんな形でも喜んで相手に対して手を差し出す。それは彼の人生全てを表しているとも言える。彼がずっとやりたかったことは世界に愛を届けたいってことだったんだ。彼は地上に舞い降りた天使だったんだよ」

10代の頃、親友であるLarry LevanやRobert Williamsと共に、Knucklesはニューヨークの初期のディスコ・カルチャーにのめり込んでいた。Nicky SianoのThe GalleryやDavid MancusoのLoftをはじめ、無名のクラブへも通い詰めていた。Tim Lawrenceは、当時ファッション・イラストの勉強をしていたKnucklesがニューヨークのゲイ・シーンでLevanと出会ったと記述している。Nicky Sianoは1972年、ちょうどThe Galleryがオープンした直後にクラブ店内の内装等を手伝ってもらうためにKnucklesとLevanを雇い入れた。「Larryと僕は風船を膨らませたり、フード・バーやパンチなんかの飲み物の準備をしたり、LSDを配ったりしていたんだ」とKnucklesはLawrenceに語っている。「だけどほとんど多くの時間はブースの前にうろついてNickyの動き一つ一つを観察していたんだ」

Larry Levan, Frankie Knuckles, Tee Scott

LevanがThe Continental BathsでDJとして雇われた後、Knucklesもまた彼を追って照明や代役のDJとして働き始める。そしてLevanが新たなレジデンシーとしてクラブを移った際にはLevanの後をKnucklesが引き継ぐことになる。その後The Continental Bathsが閉店した後は、一時的にKnucklesはThe Stargate Ballroomでプレイしていた。

その頃Williamsと彼の友人らはシカゴで行っていたUS Studioでのパーティーを新たな場所、206 South Jefferson Streetへと移していた。そこでWilliamsはLevanにクラブでプレイしてもらうためシカゴへの移住を打診していたが彼に断られ、その後Knucklesに話を持ちかけところ彼はシカゴ行きを承諾。1977年のことだった。クラブはすぐにThe Warehouseという呼び名が付き、その後歴史となっていく。

ChaytorはRon HardyがレジデントDJを務めていたシカゴのDen Oneに初めて"ゲイ天国"を見い出す。毎週土曜の夜、午前4時にクラブが閉まった後、Hardyと友人らはいつもWarehouseへ通っていた。そこでHardyはChaytorに、Williamsと新しく加わったKnucklesを紹介する。「彼らによって自分はもう一つ別レベルのカルチャー的影響を大きく受けたんだけど、それは今現在でもとてもありがたい出来事だったと思っているんだ」とChaytorは言う。「人生のあらゆる部分でね。最高だったよ、音楽やダンス、社交場として、そしてアートしてもね」

Warehouseのパーティーは金曜の夜11時から12時の間に始まり、翌昼まで続いた。「Frankieはニューヨークに戻っては、新たな音楽を手に入れていたんだけど、ニューヨークから彼に新しい音楽を運ばせていたとも言えるね」。Chaytorは思い返す。「彼は、普通のクラブやこの辺りのクラブでは聞けないような、いつも新しく、フレッシュで、心奪われるトラックをプレイしていたんだ。常にソウルを感じさせられていた。」

Warehouseに集まる人々は音楽と同様に様々だった。「人種、社会的地位、性別は全く関係なかった」とChaytorは語る。「Frankieは、人生と魂に対する祝福でみんなを一つにして繋げる事ができたんだよ」

Knucklesは曲のセレクト同様にプログラミングでも有名だった。「彼のサウンド操作によって音の広がり、奥行きが作り上げられ、様々な格好で旅行しているような気分にさせられる。彼の音楽スタイル自体がいつも旅のようなものだった」とChaytorは言う。「暖かくて力強い始まりから、彼の望む、未知なる場所へと観客を導いていくんだ」

「夜が深くなるにつれ、リズムのテンポがアップしていったんだ」とWilliamsは言う。「そして明け方に向かい始めるある時間帯で彼は徐々にテンポを落としていき、ちょっと休ませる感じにもなって、それからまた彼の気分が上がってくると、再びテンポも上がっていく感じだった」

Warehouse自体は小さなスペースだったが、そこにはドラマティックなエフェクトがあった。「通気口が開く雨風避け用のブロック窓があって、その窓を開けると熱が発生して、自然の霧が舞い込んで来るんだ」とChaytorは振り返る。「霧がどんどん入って来ると、Frankieは雷雨の効果音をかけ、今にも消えそうに、照明を揺らめかせながら、Chaka Khanの"Clouds"をスタートさせるんだ」

Frankie Knuckles at Carol's speakeasy in Chicago

「僕は“列車音”で一番有名だったと思うよ」とKnucklesは1990年にChicago Sun-TimesのPatricia Smithに語っている。「ある晩、余った時間でプレイしていた時に特急列車の効果音をかけたんだ。全部の灯りを消して、列車の轟音が室内の後方から前方へと移動して行った。みんな本当に列車が室内を通過して行こうとしていると思ったんだよ。みんな完全に驚いて怖がっていたんだ。けどみんなまたその音を体感したがって戻って来ていたけどね」

「"Jack the box!"で若い子らは大声を出したり叫んだりしていたよ」とChaytorは言う。「Frankieのサウンドに彼らは大きな声援をあげ、彼を盛り上げ、Frankieはそれに応えて観客を高揚させていく。Frankieは決して観客から離れたいとは思ってなかった。彼がこだわっていたのは"自分の奥底から感じたい"ってことだったんだ」。Chaytorはキック・ドラムの強さを表現して「その場所自体が呼吸しているかのようだった」と語る。

Knucklesは常に革新的だった。RAのPlaying FavouritesでKnucklesはStephen Titmusに、彼の友人でもありサウンド・エンジニアリングの生徒だったErasmo Riveraとテープ編集に関してどのように共同作業が始まったのかを語っている。

「最初に彼に渡した曲はHoward Johnsonの"So Fine"だった。彼は信じられないような素晴らしいエディットをしてくれ、その一曲をかけたらフロアー中のお客さんがもう一度かけて欲しいと言ったほどだよ」とKnucklesは語っていた。「レコードを渡す度に、彼の腕は益々上がっていった。それが僕にインスピレーションを与えてもくれたんだ。そして僕は家でテープを切り始めたんだ。パイオニアから当時発売されていたオープンリール式テープを背に、ワックスペンシルとスプライシングブロックを使ってね。ターンテーブルの隣に座り込んで、切れるものは全て切った」

ここからRiveraとKnucklesによるファースト・チョイスの"Let No Man Put Asunder"のリエディットが完成し、その後Salsoul Recordsが強い関心を示し、1983年にはKnucklesのリミックスを収録したシングルが再発されることになる。それがKnucklesの商業的には初のリミックス作品となった。

編集においてKnucklesを手助けしたもう一人のサウンド・エンジニアは、その後DJ、プロデューサーとして活躍するCraig Loftisだった。LoftisはKikrikosの"Life Is a Jungle"、Harold Melvin & The Blue Noteaの"Bad Luck"、Teddy Pendergrassの"Only the Strong Survive"、The Dellsの"Get On Down"、そしてKlein & MBOの"Wonderful"といったトラックが数ある中でも印象深く思い出に残っているという。

「Isaac Hayesの"I Can't Turn Around"をやったのはFrankieが最初だった」とLoftisは言う。「あれは彼の考えだったんだ」とLoftisはホーンのフレーズを鼻歌で歌った。「実際にそのフレーズはIsaac Hayesのその曲の中でも相当短く小さな部分だったんだ。１分すらなかったよ。ある日それを聞いたFrankieが"ワオ"と反応し、それをループし始めたんだ。そこから歴史が生まれたんだよ」

Warehouseでの活動から約5年後、27歳の時にKnucklesは独立することを決断する。1982年11月、Knucklesは毎週金曜の夜にRiverside ClubでのDJをスタートさせた。1ヶ月後、クラブはPower Plantと改名する。Knucklesは過去の名曲をエディットすることで名を馳せていたが、Power PlantではDerrick Mayから購入したRolandのドラムマシーンTR-909を使って実験を始める。Loftisによれば、DJのGreg Grayが最初のリズム・パターンのプログラミングなどを手伝っていたようだ。

「シカゴでサウンドシステムにドラムマシーンを導入したのは僕らが初めてだったと思うよ」とLoftisは語っている。「自分たちがかけている曲に909をミックスして、どデカいテンポの起伏を作るんだ。一度リズム・トラックをそこにプログラムすれば、後は座って、聞きたいリズム・パターンを押せばいいだけなんだよ」

一時、KnucklesはI.R.S.レコードプールから生まれたレコード・ショップ、Importes Etc.のバイヤーを務めていた時期があった。若き日のJamie Principleが自身の恋人、Lisaのために書いたラヴ・ソングのテープをKnucklesに渡したのもそのレコード店だった。それからPrinciple、KnucklesとLoftisはクラブでプレイするためその曲の別ヴァージョンを出し合い始めた。

Greg Gayの荒削りなビート・パターンとPrincipleの甘いヴォーカルの組み合わせによる"Your Love”の別ヴァージョンは何年もの間プレイされ人気を呼んだ。Loftisは「Knucklesは909を使って様々なビートパターンをレコーディングし、それから”Your Love”のアカペラをそのトラックの上に載せたんだ。それはすごいことだったんだよ」と振り返っている。

KnucklesはPrincipleをスタジオに呼び、”Waiting On My Angel"をより高いサウンド・クオリティで再レコーディングする。それはBillboardマガジンの”12インチ・シングルセールス”チャートに入った初めてのシカゴ・トラックだった。そのためニューヨークのレコード・プレス工場、Masterdiskではプレスが追いついていかない自体が起きた。その後すぐにTrax RecordsからJessse Saunderによる無認可のカヴァーがリリースされた。

KnucklesとPrincipleによる続くシングル”Your Love”は、おそらくHot TracksのMark "Hot Rod" Trollaによるポップなミックスのせいもあってダンスチャートでそこまでの成功は収められなかった。後にKnucklesのよりタイトなエディットはDJ Internationalからリリースされ名ヴァージョンとなった。一方Traxからは再びそのブートレグが発売されており、KnucklesとPrincipleは2011年の再結成の際に抗議の声を上げている。

「Jamieのトラックは当時のPower Plantの流れにぴたりとハマるもので自然と人気を呼びヒットしていたんだ」とLoftisは言う。「暗く、いかがわしさを持つPower Plant自体のその雰囲気がよかった。やりたいことは何でもできるしね」。Warehouseと同様、Power Plantでのパーティーは翌朝まで続いた。土曜日の朝11時、フロアではまだ踊っている人達がいて、クラブは12時間営業していたとLoftisは語っている。

KnucklesがラジオのWBMX局や、Trianon、Medusa's、CoconutsやGallery 21といったシカゴのクラブでもプレイするようになった後の1985年の終わりに、突然Power Plantの賃貸契約が終了する。その後1987年に、J.M. Silkの"Music Is the Key"等のハウス・ミュージックがイギリスのポップチャートを上り始め、KnucklesもまたDeliriumと共に2ヶ月間Heavenでプレイするためロンドンへと旅立った。

ツアーから戻った後、Knucklesはプロダクション作業の利便性からニューヨークへ戻り住む。MancusoのLoftの初期参加者であるJudy Weinsteinは、Knucklesのシカゴ後の活動において重要な役割を果たすことになる。Weinsteinは、ディスコ・レコード・プールでもあるFor The Recordの創設者で、LevanのParadaise Garageのブッキング担当であり、1987年には彼女がマネージャーを務めていたDavid Moralesとリミックス・プロダクション・カンパニーDef Mixを共同創設する人物だ。Knucklesはすぐに、DJでありキーボード・プレーヤーでもあるSatoshi Tomiieから日本で渡されたデモ・トラック"Tears"を携えDef Mixへ参加することになる。

90年代にニューヨークでKnucklesは、Roxy、Sound Factory BarなどでレジデンスDJを務めていた。FaithfanzineでのMiles SimpsonによるインタビューでKnucklesは、90年代初期をクラブシーンにおける“ニューヨークの黄金期”と位置づけている。

1991年にKnucklesはVirgin Recordsと契約し、Eric Kupperとの共作アルバム『Beyond The Mix』をリリースする。Sound Factoryで彼が"The Whistle Song"をプレイし始めてから、瞬く間にヒットし、反響が大きくなっていったのは、Virginからオフィシャル・リリースされる半年前の出来事だった。

Def Mixは90年代のダンスフロアにおいて不可欠な存在となり、1997年、98年にKnucklesとMoralesのそれぞれのグラミー賞「リミックス・オブ・ジ・イヤー（クラシック以外）」獲得へ導いたとも言える。Knucklesは、Toni Braxton、Michael Jackson、Janet Jackson、Lisa Stansfield、Mary J. Blige、Chaka Khan、Pet Shop Boysといったアーティスト達のリミックスも手掛けて来た。Def Mixのウェブサイトによれば、イギリスのプロデューサー、Trevor HornはKnucklesの「瑞々しく広がりのある開放的アレンジ」に強い影響を与えていたとある。Knucklesは1997年、Sound Factory BarでのレジデンスDJが終了した際にプロデュース業を一時休止する。

ニューヨークを拠点に何年もツアーをこなしてきた後、Knucklesは2000年にシカゴへ戻り、D/E EntertainmentのFrederick DunsonとDennis Evansが彼のためにオーガナイズしたパーティーでプレイする。彼は糖尿病にも関わらずツアーを続け、イタリア、リッチョーネのEchoesでのマンスリーでのレジデンスDJも楽しんでいた。

プロデュース業から離れ10年、誰に聞いても、2008年のHercules & Love Affair"Blind"のKnucklesのリミックスの成功は彼自身が驚いていたという。2011年から、KnucklesとEric Kupperはディレクターズ・カットとして数多くのKnucklesの名作をアップデートしリリースしていく。

シカゴハウスは思いがけない文化的交流、衝突から生まれて来た。Frankie KnucklesとRobert Williamsはニューヨーク・ディスコのアフターアワーズをシカゴに持ち込み、WDAIとWBMX局は最新のミックスを流し、シンセサイザーが安価なものになっていく中、Importes Etcはイタロ・ディスコを前面に押し出し、中流階級の10代の黒人たちはニューウェイヴやインダストリアル・ミュージックに尻込みし、Ron HardyはMuzic Boxでザラついたラフなトラックを回していた・・・列挙すべき事柄は尽きない。しかしながら、世界中に広がっていく以前に、街全体の現象として現れ始めたきっかけは、やはりFrankie Knucklesの威勢のいいビートに帰する。

しかしここ最近、Knucklesは名曲のみのセットでプレイするDJではなかった。「今現在を生き、現在進行形の仕事をしていかなければならない。そうでなければレトロDJとして見なされてしまうだろうね」。KnucklesはMiles Simpsonにそう語っている。「僕は違うよ。そういったレッテルを自分の首に巻くには、今現在やっている仕事は非常に最新のもので、現在進行形のものだという自負がある」

Knucklesはいつもファン達に寛容であり、彼がプレイする際はフロアのドアを開けた瞬間から楽しく幸せな体験が約束されている。何がKnucklesを比類のない存在にしているのか尋ねたところ、Williamsはすぐに答えてくれた。「彼の持つプロフェッショナリズムだよ」

友人でDJのDana Powellは、シカゴのクラブでアンプがオーバーヒートを起こし音が断続的に出なくなってしまった、ある晩のことを思い出していた。「かなりストレスのたまる状況だったよ」とPowellは思い返していた。「だけど彼はあたかも世界の全てがそこにあり回っているかのように、プレイを続けていたんだ。そしてその夜の終わりに彼をハグし、彼に言ったんだ。"知っているかい？君は真のプロフェッショナルだ。逆境にも関わらず自分の任務を遂行していく、真の兵士のようだ"」

Knucklesの死によってシカゴのクラブ、ラジオ、そして特にFacebook上で多くの追悼が寄せられた。「友人の死と向き合う上で自分にとって救いだったのは、彼が今はしばらく会っていなかった友人らと一緒にいるってことだよ」とLoftisは言う。「今どんなパーティーをやってるのか想像もつかないよ。だってRichard Longのサウンドシステムで、Larry Levan、Frankie Knuckles、Ron Hardy、Tee Scottみんなが天国で集まってるんだよ」