日をまたぐパーティーや、メディアに露出しないアーティスト、そして金塊のようにトラック名をひた隠すアーティストたち – ダンスミュージックの中でミニマルハウスほどこの傾向が強いシーンはない。そしてルーマニア人たちほど、そこに議論を巻き起こし、時には苛立ちさえも生み出す人たちはいない。プレス枚数の少ないアナログレコード、そしてインタビュー、ウェブへの露出、世間との接触など、アーティストとしての一般的な営業活動を拒否する彼らの姿勢は、彼らが制作／プレイする音楽と同等に彼らを定義づける要素となっている。Rareshはそのルーマニア一派において、ソロとして、そしてRhadooとPetre Inspirescuと共に運営するレーベル[a:rpia:r]のひとりとして中心に位置している。3人の中で最も若い彼は、2006年にブカレストでRicardo Villalobosによって見出されたその魅力的なDJプレイにより最も高い知名度を誇る。そして2006年以降、Rareshは本人が好むクラブやアフターパーティーをひいきすることなく、フェスティバルでもその熟練のスキルを披露し続け、今や世界を代表するDJのひとりとして認識されるようになった。

Rareshのサウンドは他の多くのハウスミュージックと比較すると、ダビーで音数が少なく直線的だが、フィルターやフェーダーを多用し、時として派手なブレイクを演出するそのプレイは、同年代の他のDJたちよりも遙かに巨大なファンベースを生み出すことになった。そして現在31歳の彼は、「とにかく優れたプレイをする」というオールドスクールな方法論でファンベースを築いてきた。DJとしてのキャリアをスタートさせてから約15年が経過しているRareshのディスコグラフィーは数枚のリリースとわずかな数のポッドキャスト、そして3枚のミックスCD（最新作は昨年10月にリリースされた『fabric 78』）だけである。つまり、彼のファンを名乗る層がその才能を判断する際に基準としているのは、現場での彼のプレイなのだ。

また彼の生活は魅力的なほどシンプルだ。家族とブカレストで暮らす彼は、平日に制作、週末にDJをこなすだけだが、このインタビューで本人が言っている通り、彼にとってはそれだけで十分なのだろう。

まずはfabricからリリースされたミックスCD（Fabric 78）について伺いますが、どのようなアプローチで取り組みましたか？

RhadooやPedro（Petre Inspirescu）とは少し違う内容にしようと思ったんだ。でもそこまで大きく変える必要もなかったね。2013年にオファーをもらったあと、選曲したトラックを別のフォルダに分け始めたよ。今は本当に素晴らしい音楽が数多く存在しているんだ。友人から送られてくるトラックも含めてね。とにかくディグしまくって、オンラインストアもすべてチェックしないといけないんだ。

新しい音楽を探すためにどの程度の時間を割いていますか？　他人のDJミックスを聴く時はありますか？

家族と過ごすことと音楽を聴くことに僕のすべての時間を費やしているよ。ミックスを聴く時間はあまりないけれど、たまに車の中で聴くかな。基本的には僕の元に送られてきた大量の音楽を聴いているよ。その大半はデジタルだね。それが終わってから新旧のアナログをディグする。面白い音楽を探すのは最高だよね。これが仕事にできていることに感謝しているし、自分はラッキーだと思う。

自宅では他にどのような音楽を？

できるだけ沢山聴くようにしているよ。ジャズ、クラシック、すべてのスタイルをね。どんな音楽からでもインスピレーションは得られるから。

あなたや他のルーマニア人DJ（そしてZipやRicardo Villalobosなど）の場合、音楽のためにインターネットを利用している姿が中々想像できませんが、あなたの場合はプレイする楽曲の多くをインターネットで見つけているんですね？

インターネットは音楽にとって非常にパワフルなツールだよ。本当に沢山の音楽があるから混乱する時もあるけれど、音楽など様々なことをリサーチするのに便利だから気に入っている。例えばDiscogsなんて、音楽ファンには素晴らしいサイトだよね。

Discogsを利用しているのであれば、[a:rpia:r]のレコードが高額で取引されていることはご存じかと思います。どう感じていますか？

Discogsでとんでもない値段がついているのは見たよ。でもそれって僕たちのレコードに限った話じゃないよね。僕たちのレコードの価格が高騰している理由のひとつは、2007年にレーベルをスタートさせた頃の初期作品群を300枚ずつしかプレスしなかったからなんだ。でも時と共にプレス枚数も増えていっているから、今の高騰は純粋にハイプが原因だと思う。そしてそれを利用して儲けたがっている人がいる。今はこれもシーンの一部なんだよ。

音楽雑誌やサイトはチェックしますか？　記事やレビューを読みますか？

僕は基本的に音楽だけに集中しているけれど、世の中がどうなっているかについての情報も仕入れておきたいと思っているんだ。良い記事を読むと自分を多少リフレッシュできるし。

トラック名を訊ねてくる人たちをどう思いますか？　自分のプレイするトラックを秘密にしたがるDJもいますよね。

何故なら、良い音楽を探すのにはそれ相応の時間がかかるからね。僕はそこまで秘密主義じゃないけれど、誰でも自分で音楽を探せるはずだとは思うよ。世の中に存在している訳だから、あとは自分で探さないと。

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他のDJたちとはどうですか？　お互いにトラックを教え合ったりしますか？

もちろんシェアするよ。仲間の意見は重要だし。お互いに秘密にすることはないね。僕は常に「同じトラックを持っていたとしても、みんな自分のやり方でプレイするし、自分なりのソウルを込めてプレイするものさ」って言っているんだ。

最近のプレイには自分の未発表曲が何曲程度盛り込まれているのでしょう？

数曲だね。Praslea、Dan Andrei、Cristi Cons、Vlad Caiaたちと一緒に制作したライブジャムやライブレコーディングもあるよ。

スタジオを探しているらしいですが、進んでいますか？

まだ探しているけれど、ほとんど見つかったと言っていい状態かな。自分の好みに仕上げるには時間がかかる。でも、全く焦っていないんだ。自然の成り行きに任せているから。DJで凄く忙しいしね。機材もすでにある程度揃っているけれど、他のみんなと同じで、もっと欲しいなという気持ちになる時も多いから。

トラックをリリースする前にどの程度の期間クラブで試しますか？

通常はリリースするまでかなりの時間をかけてテストするよ。まず僕たちのハートと耳が納得できるかどうかを判断して、それからフロアで試すんだ。でも聴いてすぐに「これだ！　これはリリースしよう！」ってなる時もあるよ。

[a:rpia:r]の中ですぐにリリースしようと思った作品はどれでしょう？

Pedroのアルバムは自然にそういう判断になったね。すぐにリリースしようって話になった。あとはDan Andreiの「Prima In Cerc Are」EPとCinderfella LTDの「Ephemeris」EPも初めて聴いた瞬間に、リリースを決めたね。

[a:rpia:r]のリリース群の共通点は？

自分たちがのめり込めるトラックをリリースしているだけだよ。僕と友人がエモーショナルになれるトラックをね。

他のルーマニア人プロデューサーの未発表曲をプレイする場合、それらの多くは新曲なのでしょうか？　それとも数年前に作られた未発表曲を今でも数多くプレイしているのでしょうか？

ルーマニア人アーティストの新しい未発表曲を数多くプレイしているよ。でもルーマニア人に限った話じゃないけどね。古いトラックに関して言えば、時間が経ってしまったり、他の新しいトラックを聴いているうちに忘れてしまったりするトラックがある。長年ハードディスクに残っているのを再発見して、改めて素晴らしいと気付くんだよね。

ルーマニアンハウスというサウンドはあるのでしょうか？

そんなものは存在しないと思うよ。勿論、ここ数年はルーマニア産のハウスやテクノが海外から注目されているみたいだけど、それは単純に音楽制作をする人口が増えたからだと思う。

あなたと[a:rpia:r]の仲間は、以前から同郷のルーマニア人アーティストのサポートをしたいと言っています。

基本的に他人を助けるのは大切だと思うからね。音楽に関して言えば、自分の友人のトラックをプレイして、彼らにフィードバックを返して、彼らがもっと先に行けるように手助けするほど素晴らしいことはないよね？

ひとりでプレイする方が好きですか？　それともRhadooやPedroと一緒にプレイする方が好きですか？

仲間と一緒にプレイするのも好きだし、ひとりでプレイするのも好きだよ。パーティーによりけりだけど、それぞれ違ったフィーリングが得られるからね。最高だと思えるのは、みんなで一緒にプレイしても毎回内容が違うってところかな。

いつDJを学んだのでしょう？

14歳の時に友人がエレクトロニクスを教えてくれた。僕は元々音楽よりエレクトロニクスに興味を持っていたんだ。アンプも自作した位だよ。祖母の古いラジオのスピーカーと組み合わせてね。いちから何か組み上げるのは最高だよ。サーキットボードから何かを作ったり、スピーカー用の木製ボックスを作ったりね。

そのあと、15歳の時に地元バカウのディスコでプレイを始めた。そこではあらゆる客層に対してあらゆる音楽をプレイしなければならなかった。ターンテーブルもなくて、ピッチコントロールがついたダブルCDプレイヤーだけしかなかった。初期のギグは若い子たちを相手にした午後4時から午後9時までのアフタヌーンパーティーだった。それを1年間続けたんだ。そして2001年に、バカウで唯一ハウスだけがかかるクラブZebraでプレイするチャンスをもらえた。一晩中ハウスとテクノだけをプレイ出来るのが本当に嬉しかったよ。そこにはTechnics SL-1210MK2が2台あって、それでミックスを学んだ。衝撃的だったね。すぐにアナログレコードにのめり込んだよ。でも、2005年にブカレストの大学で勉強するために一度レジデントをストップした。結局、それ以降も300kmの距離をバスに乗って週末はZebraでのプレイを続けたけど。

大学では何を専攻していたのですか？

化学工学だね。でも2006年に音楽の仕事が忙しくなって、大学を中退しなければならなかった。２つのことを同時にやるのは僕には無理なんだ。だから僕は音楽を選んだ。後悔はまったくしていないよ。

初めて買ったレコードを憶えていますか？

UKのテックハウスとテクノが好きだった、あとはプログレッシブハウスもね。Eukahouse、2020Vision、Mosaic、Crayon、Soma Records、Yoshitoshiなんかが大好きだった。沢山のレーベルが好きだったし、今でもその中のいくつかは素晴らしいレコードだと思っているよ。本当に衝撃を受けたトラックのひとつが、Wulf n’ Bearの"Raptures Of The Deep"だった。あとはOtakuがSomaからリリースした"Emilia"というトラックも好きだった。Discogsで調べている時に、両方とも同じアーティストが手がけた作品だってことを知ったんだ。

当時はどこでプレイするトラックを見つけていたのでしょう？

当時ルーマニアにはレコードショップがなかったから、オンラインで注文していたよ。最初はCovertとJunoだった。Covertはもう存在しないけど、Junoは今でも素晴らしいオンラインストアだと思うよ。

レコード代はどうやって捻出していたのでしょう？　他に仕事をしていたのですか？

週末のDJが唯一の仕事だった。だから買う時は慎重に選んでいたよ。スペシャルなレコードや、持っておくべきだと思えるレコードだけを買っていた。

Zebraでは他の国のビッグネームもプレイしたのでしょうか？　Ricardo（Villalobos）はプレイしましたよね？　他には誰が？

ブカレスト出身のDJに沢山出会ったね。Sunrise（ブッキングエージェンシー）のCatalinにもそこで出会って、ルーマニアの他の都市のギグを紹介してくれるようになった。でも状況が変わったのは2006年にブカレストでRicardo Villalobosと一緒にプレイしてからだね。このパーティーのあと、僕は世界に知られるようになった。Ricardoとも親友になったし。あのパーティーはマジカルだったね。

何がそこまでスペシャルだったのでしょう？

Ricardoとの初めてのパーティーだったから当然スペシャルだったよね。前々から準備をしていたから。凄くナーバスだったけれど、あらゆる面で素晴らしいパーティーになった。ブカレスト郊外のヴィラでアフターパーティーもあって、そこでもRicardoと一緒にプレイしたんだ。

00年代中盤と比べて自分のDJはどう変わりましたか？

そこまで変わっていないと思う。寝なかったり、二日酔いになったりする日が多くなったかもだけど、音楽に対する情熱は変わらない。新しい音楽やサウンドを探そうとする情熱は昔から持っているよ。もうひとつ重要な要素は友人だね。周囲の人間が素晴らしい何かを生み出してくれるということさ。友人と同じ情熱をシェアできれば、自動的に素晴らしい何かが生み出せるんだ。

かつてあなたは予想不可能なDJをすることが重要だと言っていましたが、有名になった今、それは難しくなっていませんか？　大きなヴェニューでは予想不可能なセットはリスキーになる可能性があります。

ひとつのスタイルのDJだと思われないようにするのは非常に重要だよ。沢山のスタイルを用意しておくのが良いと思う。勿論、特定のスタイルでプレイすることになるのがあらかじめ分かっている場所もあるけれど、いずれにせよ予想通りにはいかない。ヴェニューが大きくなると、そこでは特定のレコードがプレイできないってことが事前に分かるようになる。でも、オーディエンスが期待していないようなトラックをプレイすると、その場に多少刺激を与えることができるんだ。

最近ブカレストのパーティーに顔を出しましたか？　ブカレストのシーンはどう変わってきているのでしょう？　ルーマニアがEUに加盟してしばらく経ちました（2007年に加盟）。

自分がプレイする以外はあまり出かけないね。家族がいるし、自宅でゆっくりしたいから。でも、シーンは良くなってきているし、力をつけてきているね。沢山の人たちが音楽を作っているか、パーティーをオーガナイズしているね。オーディエンスも音楽に対して情熱的だし、僕がプレイするパーティーの雰囲気も凄く良いよ。

EUに加盟してからは、ルーマニアのパーティーをチェックしに来る観光客が増えたと思う。Sunwaves、12 HDM、Mioritmic、Dor De Munteや僕たちのパーティーは今のルーマニアを表す良い例だと思う。

あなたはブカレストのどの辺りに住んでいるのでしょう？

中心地に近いところだね。日中は少しうるさすぎる時もあるかな。数年後には郊外に出て、家族のために静かな環境で暮らそうと考えているんだ。

家族を持って生活に対する考え方に変化がありましたか？

そうだね。家族のおかげで落ち着いていられる。家族と一緒に過ごす時間は最高だよ。