Humberto Hernándezがついに口を開いてくれた。過去に2回試みるも失敗に終わったインタビューが、三度目の正直でようやく実現したのである。2010年、彼がAndrés名義での2ndアルバム『Andres II』をリリースした直後、私は事前に決められていた時間に彼に電話をした。彼は数分後にかけ直してくれと言って電話を切ったが、その後、何回かけ直しても彼が電話に出ることはなかった。

このアルバムは、Andrés名義の作品の中でも異彩を放つ意欲作である。デトロイトのBuyRite Recordsで一緒に働いた仲であるMoodymannが、自身のレーベルKDJやMahogani Musicから彼の音楽をリリースし始めてから、10年のキャリアを重ねた末に発表した『Andres II』には、30曲に渡って広大な、なおかつ複雑に入り組んだヴィジョンが提示されていた。ラテン・ヒップホップ・グループ、Ozomatliと関わっていた過去があり、キューバ人のミュージシャン／パーカッショニストを父親に持つ彼の、ルーツとなる音楽と、埃まみれのサンプリング主体のハウス・ミュージックが深い繋がりを見せている作品であった。『Andres II』はまた、Andrésと、Hernándezのヒップホップ・アーティストとしての別の顔、DJ Dezという２つの名義の美しい融合が始まった作品でもあった。同作は、Jディラのインスト・ヒップホップの名盤『Donuts』のハウス版といった捉え方もできる作品であったが、人気ヒップホップ・グループ、スラム・ヴィレッジのDJとして活動し、長年ディラとスタジオやステージを共にした仲であったことを考えると、それも納得がいく。

2012年の5月、その夏大ヒットとなり、その年末にRAの年間ベストトラックに選ばれることとなるAndrésのシングル、"New For U"がどんどんと注目を集めていたころ、私は偶然にもデトロイトのMovement FestivalでHernándezに紹介され、彼はしぶしぶではあったが、その場の即席インタビューに応じてくれた。ところがその会話はほんの数分で終わり、彼の返答は一言が多かった。しかしそういったアルバムやシングルのヒットによってプロデューサーとして注目度が増し、Hernándezを取り巻く環境が大いに変わったこともあったのか、今回ようやく実現したインタビューでは、以前よりも心を開いてくれているようであった。ニューアルバム『Andres IV』のリリースを控えているHernándezが、ベテランらしい視点でこれまでの歩みを振り返ってくれた。

今年、EP「Believin'」をリリースしていますが、それまでの数年間、あまり目立つ活動はなかったように思います。その期間はどう過ごしていたのですか？

目立たなかったかな？DJ DezとしてDJ Butterと一緒にヒップホップ・アルバム『A Piece Of The Action』を出したし、Andrésの活動としては、リミックスのオファーが絶えなかった。

これだけの量のリミックスを手がけていて、いかがですか？

まぁ、楽しいのもあるね。リミックスは色々な人と仕事する機会になるし、すでにシーンで起きていることとは別のことができそうなプロジェクトを選ぶようにしているよ。マッシュアップとか呼ばれている、ブレンドのテクニックはDJとして前からやっていたことなんだ。ある意味、リミックスはDJの更に奥深いことをやっているようなんだ。ブレンドするんじゃなくて自分でビートを作って、その曲を更なる高みへと押し進めるという。

ヒップホップには既存の曲のトラックのみを差し替えるというリミックスの伝統があり、あなたのようにヒップホップ畑出身の人にとっては、リミックスをすることが至って自然なことなのだと想像できます。

ああ、同じこととして捉えている。あまりヒップホップのリミックスのオファーはこないんだけどね。（笑）

その一方で、あなたはヒップホップDJ的な手法をハウス・セットに持ち込むことで知られています。例えばスクラッチDJのようなクイックなカッティングや2枚使いなど。

俺のようなプレイをする人はダンス・ミュージックにあまりいないことは解っている。けど、ヒップホップ好きじゃない人からすると邪魔だと感じてしまうかもしれないようなことはしていないし、ちゃんと曲をかけることを意識している。俺のDJの仕方に影響を与えた唯一の人物は、Terrence Parkerなんだ。友人の家にいたとき、彼女がTerrence Parkerのミックスをかけていて、俺は「これ誰？」ってきいたのを覚えているよ。それまで、ハウス・ミュージックではスクラッチをすることがタブーなのだと思っていたんだ。

ハウスDJはもっと冒険的になるべきだと思いますか？

どんなDJももっと冒険的になればいいのに、と思うね。俺はDJをするとき、人に音楽を教える義務があると感じている。俺は、色々な人に音楽をシェアしてもらって、多種多様な音楽が手に入る立場にいるからだ。この音楽を自分だけのものにしよう、といった独占は良くないと学んだんだ。別に、誰もかけていないような音楽をかけている、というワケでは決してないんだが、他の誰もやっていないやり方でかけているつもりだ。踊りやすく、なおかつ人が驚くようなことをやるのが好きだ。「なんだ今の？」って人が頭を抱えちゃうようなね。それが上手くいったときは、俺も客と同様に興奮しているよ。

2010年に、あなたがMySpaceで『A Piece Of The Action』についてポストしているのを読んだ覚えがあります。そのとき、もうすぐ発売となっていましたが、結局リリースされたのは今から1年ほど前です。何が理由でリリースが遅れたのでしょう？

そのときはまだ制作途中だった。2、3年ほど、内容をどうするか話し合っている期間があったんだ。ようやくお互いが納得いく方向性が定まったら、実際の制作はたいして時間がかからなかったんだ。

その作品への反応は今の所いかがですか？

ラジオからのサポートはほぼないね。少しはあったが、基本的にはネット上と、あとソーシャルメディア全盛期の前の頃のように、口コミが中心になっている。もっと多くの人の耳に届いて欲しいが、今時は難しい。実際に入手することができた人達は、アルバムを持って写真を撮ってアップしてくれるから、俺たちはそれを拡散してネット上で宣伝している。

"New For U"は、ここ数年のハウス・シーンを代表するヒット曲ですが、その人気が『A Piece Of The Action』の宣伝になっているということはなさそうですね。

現実はこうだ。俺はLa Vidaというレーベルをやっているが、レーベルを自分でやるようになる前、KDJとMahoganiで色々レコードを出した。しかし"New For U"ほど売れたレコードはなかったんだ。レーベルを立ち上げてから俺の音楽が良くなった、ということはないと思う。人がどういったものに惹かれるかなんて、結局解らないものだ。だから、そのアルバムが売れるのに時間がかかってもそんなに気にならない。俺は、自分の音楽を好んでくれている人がいるのかも解らないまま、何年も作品を作って来た。だからあのシングルが売れたときは、「おお、そうか」と驚いたよ。俺がやっていることは幅広い層に受け入れられるものではないことは知っているし、それでいいと思ってる。あと、ヒップホップ・シーンの人達は気難しいところがあるんだ。だから、Andrésとしての活動は恵まれていると思う。ヒップホップも重要な役割を果たしているしね。

俺のヒップホップの一面をしっかりと表現するべきだと、Kennyは昔から言っていた。俺は元々ダンス・ミュージックのアーティストとして自分の地位を築くつもりはなくて、ただ何枚か12インチを出してどういう反応があるか見てみたかった。デトロイトのテクノに間違い無く影響を受けているが、俺はまさか自分がハウス・ミュージックを作ることになるなんて思ってもいなかった。ハウスが好きじゃなかったわけではなくて、ただ俺の方向性とは違うと思っていた。しかし、Kennyに「やってみたらどうだ？」と言われた。だから何曲か作ってみると、意外に良いと思った。俺はそれまで影響を受けて来たブギー・ファンクのレコードを選んで、ネタを刻んで、Andrésの1stアルバムを作ったんだ。2ndアルバムでは、Kennyの影響でよりDJ Dezらしさを表現するようになって、「Dez Andrés」と言える作風が出来上がったんだ。ニューアルバムの『Andres IV』もそういった方向性だ。

『Andres IV』の進行具合はどうですか？

ほぼ完成だ。あとちょっとヴォーカル・ワークをして、仕上げをするぐらい。完成が楽しみだよ。今回もAmp Fiddlerに大々的に参加してもらっている。1枚のアルバムで俺の全てが解ってもらえるとは思っていないが、俺のとある一面を楽しんでもらえればと思う。

『Andrés I』、『II』、そしてEPの『Andres III』はどれも音楽的に独特です。『Andres IV』では、中心となるサウンドやムードは何かありますか？

ムードに変化があるとは思わないが、『Andres IV』の制作をしているときの状況はこれまでとは確実に違った。俺の人生が大幅に変わったから、このアルバムの制作はこれまで以上に大変だったんだ。過去のアルバムを作っていたときは、今ほど忙しく無かった。今ほど…人気じゃなかった、かな？だから、よし制作するぞ、という気になるのが難しかった。

ここ数年でデトロイト外でギグをやることが増えたことで、デトロイトという街の捉え方が変わったということはありますか？部外者の視点で、デトロイトに対して特定の印象や先入観を持っている人と接する機会も多くなったと想像できますが。

俺の捉え方は変わらないよ、現実を知っているからな。外からは、本当のことは良く解らない。しかしデトロイトの人達が、良いことも悪いことも含め、世界がこの街をどう見ているか知るべきだと思うね。そうすることで彼らの行いが変化したり、彼らが街をもっと大事にし、自分にもっと誇りを持つかもしれない。デトロイトがどれだけシーンの人々に大事にされているか、解っていない人達が沢山いると思うんだ。

Jディラが他界してから10年が経とうとしています。そのことについてどういうお気持ちですか？

正直なところ、Jディラを取り巻く状況を思うと、複雑な気持ちだ。残念なことが多い。彼の功績を正しく評価していない人々もいれば、彼と一緒に仕事をした仲の人達が彼の音楽を利用してカネを稼ごうとしていたりする。彼の功績を世に広めようとしているにもかかわらず、ネット上で彼の母親を中傷する人もいる。しかし同時に、未だに彼の名前は会話に頻繁にあがり、彼の音楽に強い関心を持つ人が多いことは良いことだ。彼は偉大なる才能だった。もしかしたら、俺たちの世代で最も偉大だったかもしれない。